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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(行ツ)44号 判決

佐賀県伊万里市栄町

上告人

木須春次

右訴訟代理人弁護士

元村和安

佐賀県伊万里市西円造寺

被上告人

伊万里税務署長

古賀兎馬己

右指定代理人

東清

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五七年(行コ)第三二号更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五八年二月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人元村和安の上告理由について

本件裁決書謄本が上告人の事務所に書留郵便により配達され、それにより上告人は本件裁決のあったことを知ったもので、上告人が本件裁決のあったことを知った日から起算して三か月以上経過後に提起された本件訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えである、とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。本件裁決書謄本が上告人に配達されず、上告人が本件裁決のあったことを知らないことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠き、失当である。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木戸口久治 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦)

(昭和五八年(行ツ)第四四号 上告人 木須春次)

上告代理人元村和安の上告理由

原判決は配達証明のない郵便による裁決書の配達(原判決は、上告人の息子の嫁である木須恵美子が裁決書謄本を受領したと認定している。)をもって、適法な裁決書の送達があったとし、上告人の本案についての審理を拒否している。しかしながら、原判決がその根拠としている国税通則法一二条一項、二項が、文書の送達方法につき、裁決書謄本のような裁判を受ける権利と密接に関係する重大な結果を招来するものを、一般の文書と区別することなく、一律に規定していると解すれば、右法律は、国民の裁判を受ける権利を実質的に不当に侵害する結果を招来するものであるから、右規定は、その限度で、憲法三二条に反する無効の規定である。右法条を憲法の規定に反しないものというためには、右法条が裁判を受ける権利に密接に関連する裁決書のような文書については適用されないものであり、このような文書は現実に送達を受けるべき者が、その内容を知り得た時と解釈するほかはない。

してみれば、原判決には、国税通則法一二条一項、二項の解釈適用を誤ったか、または、憲法三二条に反する同法の規定を適用したか、いずれかの違法があり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明白である。

上告人の右主張は、本件における裁決書の送達方法として、原審が認定した事実と、裁判所において現に行われている判決書の送達方法(特に代理人ある場合の法令の規定ならびに実務の慎重な取扱)とを対比すれば、その正当なことが明白に看取されるものであり、いずれも国民の権利を確定させる効果に結びつく送達であることを考えれば両者を著しく不均衡な状態におくことは許されないものというべきである。

よって、原判決は破棄されるべきものと信ずる。 以上

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